0120-871-355
★電話受付:平日 9時~18時

お電話

現在位置:

「夜と霧」の新版と旧版の違い

夜と霧19-3-3-1

古本屋というのは奇特な商売で、本に関しては普段生活している上ではあまりないような経験をします。


先月の買取りで「夜と霧(みすず書房、著者フランクル)」の旧版が入荷したのですが、その数日後に別のお客様から新版をお売り頂くことになりました。


そしてさらにその数日後、東京の市場でフランクル著作集の1巻(夜と霧収録)が入っている山を目にし、こちらもせっかくだからと思い(何がせっかくなのかよくわかりませんが(^_^;))入札を試みるも、こちらは入手できませんでした。


できればそちらも入手して3冊並べた画像を載せたかったのですが、期待に添えず申し訳ありません(?)。


ところで、この本は新版が出ているから旧版が売れない、という類の本ではなく、旧版も新版と同じように需要があるため、当店では査定額にもさほど違いがありません(といっても両版共に絶版しているわけではないので、当然定価以下の売値になり査定額はそれ以下になります)。


そんなわけで現在当店には旧版と新版の両方が在庫としてあるのですが、これらは超のつくベストセラーでありながら中古市場でダブついているというわけでもないという古本屋好みの本でもあり、商品化すればたちまち売れてしまいます。


ですがこのまますぐに売ってしまうのはもったいない気がして、両版が手元にあるのはちょうどいい機会だと思い、内容を調べてみることにしました。


どちらを読もうか迷っている人の参考になれば幸いです。



内容の違い

夜と霧19-3-3-2

まず画像を見て頂ければわかるように、厚みが違います。


この理由は、旧版には新版にはない独自コンテンツが2つあるためにページ数が多くなっているからで、その2つとは、冒頭のおよそ70ページにわたる「解説」と旧版最大の問題作である「写真と図版」です。


「解説」のほうはナチスドイツの大戦中の動向と強制収容所の生々しい現実がクロスするように描かれていて、「写真と図版」は強制収容所の残酷と言っても甘すぎるくらい過酷な画像が多数掲載されています。


この2つを新版でカットした理由は定かではありませんが、やはりこの2つは共にグロテスクすぎるコンテンツだからというのと、あとは新版は文学作品として仕上げようという意向があったからではないかと推測されます。


今や「夜と霧」は「精神科医による強制収容所のルポタージュ」というよりは一つの文学作品(文学作品と言ってしまうと若干のニュアンスが違う気はしますが、とはいえ適当な言葉が思いつかないのでこの言葉を使わせていただきます)として需要されている側面もあり、この2つはルポタージュと見るならば必要なコンテンツかもしれませんが、文学作品とするならば含めるべきなのかどうかと問われると難しい判断になると思います。


事実、新版では旧版の「ドイツ強制収容所の体験記録」という副題は消えていて、文学作品の一つとして仕上げようとしている気配も感じられます。


そんなわけで旧版と新版の大きな違いはというと、それは「解説」と「写真と図版」が新版ではカットされているということになります。



訳者の違い


旧版は霜山徳爾訳、新版は池田香代子訳となっています。


翻訳作品は訳者が違えば別の本という認識が一般的だと思いますので、旧版と新版は別の本で、だからこそ普通は新版が出れば旧版は絶版になるはずなのにそうなってないのはそういったことが理由にあるのだと思います。


私がきちんと読んだのは新版のほうですが、こちらはフォントも文字のサイズのちょうどよく感じられ、とても読みやすかったです。


対して旧版は「150g」が「150瓦」となっていたり、若干慣れない漢字が使われていたり、言い回しも少し引っ掛かるところもあり、少し読みづらいかなという印象を受けました。


もちろんこれらは個人差があるでしょうし、「いや旧版のほうが読みやすい」というような読書体験をしてきた方もおられるでしょうから一概には言えません。 


ですが新版のあとがきで旧版の訳者の霜山先生が書かれている通り、霜山訳は「どうしても骨っぽい、ごつごつした文体」という感じがします(対して池田訳は「流麗な文章」と評しています)。


そしてその理由は実際のアウシュヴィッツの現場を見たかどうかの違いかもしれないとも書かれていて、なるほどそういったこともあるのかと思いながら読んでいました。


ただ、繰り返しになりますが、これらは完全に個人の趣向の問題のような気がしますので、臨場感の霜山訳と流麗な池田訳、剛のラオウと柔のトキ(?)くらいに考え、それらは優越のないただのスタイルの違いと考えるとよいと思われます。



大きく分けると内容の違いは上のようになります。


どちらが優れているとか、版が古いから間違った情報だとか、そういったことはない両版ですので、それぞれに味があり読み比べれば違った印象を受けることと思います。


そして読み終わって不要になることがあれば、その時は当店へお売り頂くこともご検討頂けますと幸いです(^_^;)。

2019年3月3日 本買取ダイアリー [RSS][XML]


本買取ブログTOP